6月15日日本昔話経

むかしむかし、ある山の中に、一人のおばあさんが住んでいました。

 おばあさんは大変仏さまを大事にしていましたので、毎日毎晩、仏だんの前で手を合わせましたが、

 お経の言葉を知りません。 ある時、一人の坊さんがやって来て言いました。

「道に迷って、困っています。どうか一晩、泊めてください」「ああ、いいですとも」 おばあさんは坊さんを親切にもてなしましたが、ふと気がついていいました。「お願いです。どうか、お経の言葉を教えてください」

 ところがこの坊さんはなまけ者で、お経の言葉を知りませんでした。 でも坊さんのくせにお経を知らないともいえないので、仕方なしに仏だんの前に座ると、なんと言おうかと考えました。 すると目の前の壁の穴から、ネズミが一匹顔を出しました。 そこで坊さんは、

「?ネズミが一匹、顔出したあー」と、お経の節をつけて言いました。 すると今度は、二匹のネズミが穴から顔を出したので、

「?今度は二匹、顔出したあー」と、坊さんは言いました。 さて次に何と言おうかなと考えていると、三匹のネズミが穴から顔を出して、こちらを見ています。 そこで坊さんは、

「?次には三匹、顔出したあー」 大きな声で言うと、三匹のネズミはビックリして穴から逃げ出しました。 そこで、

「?それからみーんな、逃げ出したあー」 坊さんはそう言って、チーンと鐘を鳴らして言いました。「お経は、これでおしまいです。 少し変わったお経ですが、大変ありがたいお経です。 毎日、今のように言えばいいのです」 おばあさんはすっかり喜んで、それから毎朝毎晩、

「?ネズミが一匹、顔出したあー?今度は二匹、顔出したあー?次には三匹、顔出したあー?それからみーんな、逃げ出したあー」と、お経をあげました。 ある晩、三人の泥棒が、こっそりおばあさんの家に忍び込みました。 ちょうど、おばあさんが仏だんの前でお経をあげている時でした。「あのばあさん、何をしているのかな?」 一人の泥棒が、おばあさんの後ろのしょうじからそっと顔を出すと、

「?ネズミが一匹、顔出したあー」 おばあさんが、大声で言いました。「あれっ、おれの事を言ってるのかな?」「何をブツブツ、言ってるんだい?」 もう一人の泥棒が、顔を出すと、

「?今度は二匹、顔出したあー」 おばあさんが、また大きな声で言いました。「やっぱり、おれたちの事を言ってるみたいだぞ」「どれどれ」 三人目の泥棒が顔を出すと、

「?次には三匹、顔出したあー」 また、おばあさんの声がしました。「うへぇ、あのおばあさん、後ろに目がついているんだ。こわい、こわい」

 三人の泥棒はビックリして、あわてて逃げ出しました。 そんな事は知らないおばあさんは、また、「?それからみーんな、逃げ出したあー」と、大声で言うと、

 チーンと鐘を鳴らして仏だんに手を合わせました。

おしまい

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